2014年7月10日木曜日

狭薄沢~狭薄山遭難報告書

1.はじめに
2.事故概要
3.遭難に至るまでの経緯、遭難後の経緯
4.原因分析
5.今後の対策

1.はじめに


先にアップした狭薄沢~狭薄山遭難・ビバークの報告に頂いたメッセージを、
私なりに今後の遭難対策に活かそうと思い、記憶の薄れないうちにまとめとして本記事を作成しました。皆さまの貴重なご考察は、反省的に自分自身の山に対する想いを形にするための機会ともなっており、一人で成すのは困難な作業でした。
ここに改めまして感謝申し上げます。

平成26年7月9日記 


2.事故概要


日時:平成25年7月5~6日 単独行

内容:狭薄沢遡行~源頭部を詰め狭薄山山頂を目指す。山頂から源頭部に下降し、狭薄沢を少し戻り、入渓地点のかなり手前で林道に上がる。林道歩行中に現在地が分からなくなり、国道に出る為に歩き続けたが身体を休ませる必要性を感じ緊急ビバーク(この時点で助かる見込み無く、体力温存だけが唯一の策だった)。翌朝、偶然釣り人に出会い救助を願う。
3.遭難に至るまでの経緯、遭難後の経緯

誰にも知らせず沢登りを決行(※1)。豊平峡大橋を見つけられず、入渓予定時刻を大幅に過ぎた。
狭薄沢遡行自体は特に問題も無く予定通り(※2)。源頭部到着は当初下降開始予定時間の14:30分だった。源頭部からは、食料も尽きたし、とにかく早く山頂を目指そうと思った。藪こぎは想定外(※3)。

16:30分頃山頂付近に到着。山頂から林道を下り車まで順調に戻れたとして、どんなに早くても2hはかかると思った。
ところが、稜線らしき所に出ても三角点どころか足元もまともに見えない。一瞬のうちに2hでは到底下山できそうにないと悟った。山頂はガスっており天気の崩れを予想させ、余計追い詰められた(実際は崩れなかった)。

余裕があればガマ沢川に乗越し、あるらしい縦走路を進むという選択肢もあるのかも知れないが、私の実力では無理だと思った。確実なのは来た道を戻ることだと思い下降を開始した。

どう下りても地形的には源頭部に着くだろうと油断して、力任せに降りた。沢靴だから滑ったと言うより、全身滑り落ちるようにして下降した。
この時、唯一現在地を知らせる携帯を落としてしまい、一度登り返したが結局見つからなかった(※4)。

再び源頭部に戻り、しばらく狭薄沢を下流へ引き返し適当なところから林道に戻る。入渓地点は覚えておらず、登り易い所から登った(※5)。
時間は17:00分を過ぎており暗くなり始めていた。良かった、これで私は助かるんだと歓喜の雄叫びを上げながら歩き続けた。しかし歩いても歩いても国道への分岐は現れず、おかしいと気づいた時には遅かった。
すでに多くの分岐を闇雲に選択し、現在地が分からなくなっていた(※6)。

歩き続けているうちに夜になり、
助かりたい、という気持ちより休みたい、眠たい、という気持ちの方が強くなった。夜通し歩こうという気持ちにはならなかった。羆の糞を数えきれない程見たが、もはや雄叫びを上げるエネルギーは無くなっていた。
唯一の望みでかすかに救急車の音が聞こえた(ような気がした)分岐に戻り、月明かりの中道脇の蕗が生い茂る場所に腰を落ち着ける。暖をとるための燃料は無く、あるのはSOLのエマージェンシーシートのみ。
沢足袋を脱いで綿の靴下を履き、トレランシューズを履いた。服の着替えは無かったから、濡れた服の上から雨具の上下を着て少しでも体温を逃がさないようにし、明日の朝は目覚めないかもしれないと思いながらビバーク(※7)。

何度も助けにきてもらう夢を見ながら夜明け前に目が覚める。直ぐに行動を開始し、再びアテも無く歩く。後で地図を見返すと、大二股山や漁岳へと続く林道まで足を伸ばしていた(※8)。
前の日の昼から何も食べず、「空沼岳林道」まで来て水が尽きた。うろ覚えながら、空沼岳エリアに足を踏み入れるのは危険だという判断が働いた。来た道を引き返し通り過ぎた分岐の反対方向に歩いて行った。

すると無人の車が2台停車していた。しばらくすると釣り人が歩いてきた。私は思わず泣きながら助けを求めていた。おじさんは車に乗せてくれ、昨日から何も食べていない、と言うと直ぐにパンを提供してくれた。事情を話すと、車をデポした地点(豊平川林道入口)まで乗せてくれと言うのでお願いしますと頭を下げた。

名前を伺ったが、「帰り道だから」と教えてくれなかった(※9)。

4.原因分析
①ルート検討の不備

・狭薄山山頂からの下降のルート検討が充分なされていないのに実行してしまった
・地形図からルートのある無しを判断できておらず、山頂に行けば縦走路もあるようだ、冬期のスキー実績できっと明瞭な踏跡もあるだろうという希望的観測に基づいて行動してしまった
藪山の経験が無く、山頂から容易に下山できない山があると思っていなかった為、山頂に行けばどこに進めばいいか分かるだろうと考えていた
・周辺の夏山の状況も詳しいとは言えない
②想定の甘さ

・沢は簡単そうだ、源頭部からはGPSがあれば万が一道が分からなくなっても山頂へは行けるだろうと思っていた
・自分の地図読みはアテにならない、他人の情報によると難しいとは書いていないと思っていた
・山頂からの下山方法がはっきりしないので、最終源頭部到達時間の設定、最終山頂到達時間などのタイム・リミットの設定はしていなかった
・来た川を戻る想定をしていなかったので、入渓地点を覚えていない
・単独遡行のリスク、夏道の無い山を登るリスク、万が一のトラブルを想定していない

③この日の行動について
(※1)誰にも知らせず単独で沢登りを決行している
・沢登りの際は、パーティーであっても外部への計画書の提出が必要と感じた
(※2)とは言え復路では焦りが出て、足を滑らせ岩から落ち、膝と前頭部を強打。大事に至らなかったのは偶然で、1,000円で購入した工事現場用のヘルメットの強度テストには充分の経験だった。滝は往路に難なく直登できたが、復路ではホールドの印象が若干変わり、慣れない為に微妙な所が何ヶ所かあった。
(※3)想定外の藪こぎ
・植生を事前に調べることも必要だと感じた。藪山では落とし物をしても容易に探すことができず、落とした地点を特定できても取りに行くことが困難である場合がある。また探し物は時間をロスし、途中で現在地を見失いやすい。藪こぎ中にパーティーがはぐれて遭難してしまう状況も不思議では無い。
(※4)山と高原地図アプリを使用していた為か、携帯の電池の消耗が早く、圏外であり、もし落としていなくても何の役にも立たない可能性が高かった。不測の自体に備えるならば、絶対に充電池も必要だ。
(※5)ヘッドランプがあるとは言え暗い中奥深い沢中を歩いており、何かあったら確実に助からない状況だった。
(※6)全長5~8kmの「空沼5号」「大二股2号」「北漁林道」「大峰林道」というような名前の林道が延々と繋がっており、タイヤ痕のはっきりした林道から草が生い茂った林道、羆の糞だらけの林道等を周回しているような気分だった。
(※7)雨に当たっていたらまた状況は違っていただろう。
(※8)感覚としては漁岳登山口方向に向かっているように感じていた。
(※9)豊平川林道ゲートから歩いてきた、と言うと驚いていたが、実際はそれに加えて狭薄沢~狭薄山山頂を経由し緊急ビバークしている。おじさんによると、「空沼岳の方は熊の個体数が多く、あっちに行かなくて良かったね」とのこと。
羆がこんなに多い地域だとは全く知らなかった。
④この日の装備について
ヘッドライト(91ルーメン照射距離50m、電池寿命highで17h、mont-bell製)、携帯(山と高原地図アプリ使用)、ティッシュ、おにぎり1つ、飲むゼリー1p、水2l、ポリ袋、熊鈴、トレランシューズ、靴下、レインウェア上下、エマージェンシーシート
※以上、身軽で素早い行動を目指し普段よりかなり軽装。コンパスと地形図は無かった。
結論として、沢自体は容易なもので、初心者が遡行を計画するのに妥当な選択だった。しかし、山登り・沢登り全般において経験年数の少ない者が単独で遡行するのは危険である。単独遡行のためには、様々なリスクを想定し、装備できるだけの知識と技量が必要であると感じたが、今回はそれを完全に怠っていた。
5.今後の対策

一、目的とする山の状況を事前によく理解すること
一、自分の体力の限界についてよく理解しておくこと(歩く速さ、寒さ暑さに耐えうる体力、寝ずに歩き続けられる体力、絶食でも歩ける体力、体力回復の度合い、ウィークポイント等)
一、八時間以上のコースは前日泊で挑みタイム・リミットを設定すること
一、事前にルートの検討を充分に行うこと(タイム・リミットの設定、危険箇所・エスケープルート・距離把握、現地各ポイントで把握すべき情報の洗い出し、標高把握)
一、道迷いしそうな時、周囲の環境変化にいち早く気付ける感性を磨く
一、事前に起こりうるリスクを想定し生還する為の装備を入念にチェックすること(主な沢でのリスク~高巻き中に滑落/落石による怪我/掴まった風倒木が崩れ滑落/浮石に乗り滑落/鉄砲水に流される/雪渓トンネルが崩れ下敷き/ルート選択のミス/地図を紛失し道迷い/ハーネスのベルト外れる/ザイル・スリングが木からすっぽ抜け/捻挫・骨折して行動不能/体力不足による行動不能等)
一、万が一の為に登山計画書を知人or家族に提出すること(山名/歩くルート/所要時間目安/緊急連絡先/装備/下山連絡時刻)
一、行動時は現在地を見失わないようこまめに地図を見て把握し、見失った場合は戻ること
一、笹薮・低山・天気予報等、山を甘く見ての行動は慎む
一、使命感を持って「以前よりも事故の確率を低くする努力」を継続(日頃からミスを出さない)
一、単独行の場合はプラス1日分の非常食を用意し、警察への連絡はいつでもいいが、捜索は2日目以降にして欲しい旨を家族に伝えておく
一、必ず生還すること

その他
※25年北海道山岳遭難発生状態
http://www.police.pref.hokkaido.lg.jp/info/chiiki/sangaku/toukei/h25.pdf

狭薄山ではやはり地図をなくし道迷いの報告。雪渓で滑落し地図落としたとのことだが、藪漕ぎ中地図落とす可能性も高く、地図はコピーして2枚持つといいかも知れない。




2 件のコメント:

  1. しばらく体調悪そうだなと思っていたら、
    この土日にこんなことがあったんですね!
    ダメですダメです、大好きな白山の案内を
    まだしていないので、無事帰って来て
    もらわないと(笑)。

    心が強いですね。自分だったら途中で
    きっとめんどくさくなっています。
    無事でよかった。

    それと自分も、死なないように、
    ってGARMIN持ってます。

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  2. yamapoさん 元気になりましたか?

    私も過去に3度のビバークを経験してます。
    独りでは無かったのと、道迷いではなく単にタイムオーバーのビバークでした。
    でも、下山出来ない事で「遭難騒ぎ」一歩手前・・・での下山だったので多くの
    関係者にご迷惑を掛けてしまいました。今でもあの時々の反省は教訓になって
    います。
    7/24 ルック岳に行きませんか?
    またみんなで山談義・談笑しましょうよ。
    参加なら私も行きます・・・・。

    無事の下山何よりです。お疲れ様でした。

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